採用と広報を分けて考えるのはもう古い

採用と広報を分けて考えるのはもう古い
はじめに:なぜ“採用広報”が注目されているのか
人材獲得競争の激化
近年、企業間の人材獲得競争は一層激しさを増しています。特に若手人材や専門スキルを持つ層においては、求職者が企業を選ぶ時代に突入しており、企業側が「選ばれる理由」を明確に示す必要があります。
こうした背景のもと、従来の求人広告や採用ページだけでは十分な情報提供とは言えず、「普段から企業の魅力を伝え続ける」採用広報の重要性が高まっています。企業の本質が日頃の発信から伝わるかどうかが、応募者の心をつかむ鍵となります。
「選ばれる企業」になるために
企業のブランディングや社会的信頼は、採用にも大きな影響を与えます。たとえばSNSやオウンドメディアなどを通じて、自社の雰囲気・文化・ビジョンなどを継続的に発信している企業は、求職者から「イメージしやすい」「信頼できる」と感じてもらいやすくなります。
採用活動が単なる「人を集める手段」から、「共感を得て選ばれる戦略」に変化している今、採用と広報の連携は不可欠な要素となっています。
採用と広報を分けることの限界
情報が断片的になり統一感がない
採用と広報を別々に運用していると、求職者に届く情報に統一感がなくなります。たとえばコーポレートサイトでは堅い企業イメージを打ち出しつつ、採用サイトではフランクな雰囲気を出していると、求職者は「どっちが本当なのか?」と不信感を抱くことがあります。
統一感のない発信は、企業イメージのぶれにつながるだけでなく、情報への信頼性を損ねるリスクもあります。
企業イメージと実態のズレが生むミスマッチ
「アットホームな会社です」とアピールしていたのに、入社してみたら成果主義で競争の激しい文化だった――こうしたイメージとのギャップは、早期離職の原因になります。
企業としては、伝えたいメッセージと実態が一致しているか、常に見直しながら情報発信を行う必要があります。ギャップのない発信が、結果として企業への信頼度を高めます。
採用広報とは何か?
採用広報の定義と特徴
採用広報とは、採用目的を前提とした情報発信活動のことを指します。単なる求人情報の提供ではなく、「企業の魅力」「働く人の価値観」「職場の雰囲気」「社会に対する貢献」など、求職者が判断材料とするあらゆる要素を日常的に発信する取り組みです。
重要なのは、単発的ではなく継続的に発信すること。応募がある時だけ情報を出すのではなく、「いつ見られてもいい状態」を作ることが鍵になります。特に若年層や専門職層は、情報感度が高く、日常の発信をチェックしている傾向があります。
通常の広報・ブランディングとの違い
一般的な企業広報は顧客・投資家・取引先に向けた発信が中心ですが、採用広報は「未来の仲間」となる求職者がターゲットです。そのため、伝える内容も表現のトーンも異なります。
たとえば、従業員インタビューや仕事風景、オフィス紹介、社員の1日密着など、より「中の人」目線で共感を呼ぶコンテンツが求められます。また、職場の空気感が伝わる「何気ない日常」ほど、求職者の共感を呼びます。
採用広報がもたらす3つの効果
1. 長期的な応募の増加
情報を継続的に発信することで、企業名を覚えてもらいやすくなります。「いつか転職するならここに応募したい」といった潜在層へのアプローチが可能になります。
また、求人広告を出していない時期でも、情報発信をしていることで「気になる会社」として記憶に残り、自然なかたちで応募につながるケースも増えてきます。
2. 応募の質の向上とミスマッチの減少
採用広報によって、求職者は事前に企業の雰囲気や考え方を知ることができます。これにより、入社後のギャップが少なくなり、結果的に早期離職の防止にもつながります。
さらに、価値観に共感した人材が集まることで、カルチャーフィットの高い組織づくりが進み、職場の定着率や業務パフォーマンスにも好影響を及ぼします。
3. 社内エンゲージメントの向上
採用広報は、社外だけでなく社内にもポジティブな影響を与えます。社員が「会社の魅力を発信する活動」に関わることで、帰属意識や誇りを感じるきっかけになるのです。
また、社内で「どう発信するか」を議論する過程で、自社らしさの再認識や、部署間連携の活性化にもつながるなど、副次的な効果も期待できます。
採用広報の具体的な進め方
ターゲット設定とペルソナ設計
まずは「どんな人に来てほしいのか」を明確にします。職種別・年齢層別にペルソナを描き、それに合った情報発信を計画します。これが軸になることで、トーンや媒体選定がブレなくなります。
自社の魅力の棚卸しとストーリー化
「他社と何が違うのか?」「この会社で働く意味は?」を言語化することが重要です。業績や制度といった表面的な強みだけでなく、価値観や歴史、社風といった“目に見えない魅力”にこそ、求職者の心を動かす力があります。
情報発信チャネルの活用
採用サイトやYouTube、X(旧Twitter)、Instagram、noteなど、発信チャネルは多様です。ペルソナに合わせてメディアを選定し、継続的に運用していく体制を整えましょう。
すべてを一気に始める必要はありません。まずは社員紹介の投稿から始め、少しずつ社内協力体制を築いていくことが大切です。
コンテンツ企画のアイデア例
- 社員インタビュー「なぜこの会社に?」
- 1日の仕事スケジュール紹介
- 失敗談から学んだこと
- 社内イベントの様子
- 代表やマネージャーの価値観紹介
- 採用担当者の裏話コラム
- 数字で見る職場データ(平均年齢、育休取得率など)
こうしたコンテンツを通じて、企業の温度感やリアルな姿が伝わるようにしましょう。
成功事例から学ぶ採用広報
事例① 地方企業がSNS採用で成果
北海道のある製造業では、自社X(旧Twitter)での社員紹介とオフィス風景投稿を継続した結果、「地元でこんな会社があるとは知らなかった」と話題になり、都内在住者からの応募が増加しました。
応募の9割が「SNSを見たことがある」と回答し、広告費ゼロで新卒・中途ともに採用成功しています。
事例② エンジニア採用に動画を活用
あるIT系スタートアップでは、現役エンジニアの開発現場を動画で紹介。「どんな技術を使っているか」「チームの雰囲気はどうか」をリアルに伝えたところ、専門職からの応募が急増。スキルマッチ率も向上し、内定後の辞退率も減少しました。
まとめ:企業活動すべてが“採用広報”になる時代
採用と広報を切り分けて考える時代は終わり、両者は密接に結びついています。商品やサービス、社員の声、働く環境、社外への姿勢──そのすべてが「採用に効く」情報になり得ます。
もはや「採用のためだけのコンテンツを作る」のではなく、企業活動すべてを通して「信頼され、共感される会社」であることが問われる時代です。
今後の採用成功の鍵は、“採用広報”を一過性の施策ではなく、全社的な文化として根付かせることにあります。